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京都地方裁判所 昭和52年(む)9512号 決定 1977年5月24日

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一本件申立の趣旨および理由は、弁護人提出の準抗告申立書に記載のとおりであるから、これを引用するが、その理由として主張するところは要するに、本件勾留請求に先行してなされた本件緊急逮捕手続には、(一)逮捕後、裁判官の逮捕状を求める手続が「直ちに」なされなかつたという重大かつ明白な瑕疵があるだけではなく、(二)刑事訴訟法二一〇条一項にいわゆる緊急性もないのに、(三)同項により告知すべき理由もなんら告げないで、逮捕がなされたという重大な違法があるから、原裁判は当然取消されなければならないというにある。

二そこで、まず右(一)の点について検討するに、緊急逮捕がなされた場合には、捜査機関は直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない(刑事訴訟法二一〇条一項)が、他方、逮捕状の請求にあたつて捜査機関は緊急逮捕の要件(逮捕の必要性を含む)と逮捕の継続を認める足りる事情を疎明しなければならないから、これらの点について裁判官が判断するのに最少限必要な疎明資料および逮捕状請求書を整えるために要する合理的な時間は逮捕状の請求のために当然必要であり、この時間を超えて右請求が遅延しない限り、法の定めた時間的制約は遵守されたものと解すべきである

これを本件についてみるに、一件記録および事実取調の結果によれば、被疑者を逮捕した司法警察員福田昭雄および水野民雄(いずれも京都府堀川警察署に応援のため派遣された同府警察本部警備部所属)は、昭和五二年五月一六日午後五時七分ころから本件現場において、佐野大義(被害者)・前中一晃ら花園大学当局者七、八名から事情を聴取したのち、同日午後六時四六分大学の学生会館東側出入口前で被疑者を緊急逮捕し、同日午後七時一〇分これを堀川警察署に引致したこと、同警察署司法警察員浅倉尚雄を請求者とする本件逮捕状請求書は翌午前一時一五分京都簡易裁判所に受理されたが、これには本件緊急逮捕手続書(七丁)などのほか被害者佐野の司法警察員(前記警備部所属)矢野勝清に対する供述調書(八丁)および参考人前中の司法警察員(堀川警察署所属)に対する供述調書(八丁)が添付されていたこと、被害者佐野(当五八年)と参考人前中は、被疑者が逮捕されたのち右集団交渉などの善後策を協議するために急きよ開かれた右大学当局者の会議に出席していたので、右逮捕者が本件現場において聴取した事情などを内容とする右各供述調書の作成も同月一六日午後八時三〇分ころから始めざるをえなかつた(被害者佐野の右供述調書の作成が完了したのは同日午後一二時ころであつた)こと、更に、右各捜査官はいずれも本件犯行の原因ないし背景を正確に把握していなかつたことが認められ、本件事案の性格に鑑みて捜査官がその認識の客観性を裏づけるための被害者などの供述調書を作成することは肯認できるし、右逮捕状請求書添付の各書類はその内容に照しても本件逮捕状の請求に最少限必要であつたというべきであり、これらの資料を整えるために右請求が同月一七日午前一時一五分になつたとしても、右逮捕者と右各供述調書作成者が異ることおよび被害者佐野らの取調開始がやや遅れた事情などを考慮すると、右請求はいまだ前記時間的制約の範囲内になされたものといわなければならない。

次に、右(二)および(三)の点について検討するに、本件逮捕状請求書に添付された各資料によれば、被疑者が本件逮捕状記載の罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由のあることのほか、被疑者が集団交渉をしていた学生らと通謀して罪証を隠滅し、右学生らに紛れて逃走するおそれがあるため、裁判官に逮捕状を求める時間的余裕のなかつたことと、右逮捕者は被疑者に対し本件被疑事実の要旨および右時間的余裕のなかつたことを告げてから逮捕したことが認められる(なお、右各資料によれば、本件逮捕状発付の時点においても逮捕の必要性のあつたこと。が認められる)。

よつて、弁護人の主張はいずれも採用できない。

三原裁判は刑事訴訟法六〇条一項二号と三号により本件勾留請求を認容しているところ、一件記録によれば、右各号に該当する事由が認められる。

四以上の次第で、被疑者を勾留した原裁判は相当であり、本件申立は理由がないから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

(村上保之助 藤川眞之 松永眞明)

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